(2015年9月4日 追記あり)
電子書籍って盛り上がってるんでしょうか?
なんか、やってるところは頑張ってるけど、そうじゃないところは全然・・・って感じですよね?
今回は、そんなモヤモヤが晴れてくるような素晴らしいセッションをたくさん聞くことができました。
6時間で7セッションと言うスケジュールに加え、なかなか聞くことのできない現場からの濃い内容のセッションばかりで相当きつかったのですが、それだけの価値はあったと思います。
今回の7つのセッションは、あるセッションが提示した課題の解決方法を他のセッションが示したり、互いに補完し合ったりと、あたかも全体で1つの大きなストーリーを語っているかのような構成でした。
これがもし計画通りなら、主催者の宮地さんは映画監督になれるんじゃないかって思うくらいです。
「大阪DTPの勉強部屋」は、隔週金曜日の夜に行われている定期勉強会です。
(以前参加したときのレポートはこちら)
でも、今回はお昼からの開催です。
人数もいつもの3倍くらいです。
セッション数も時間も3倍くらいです。
うわー、最後まで頑張れるかな?
(ご注意)
本記事は、あくまで勉強会の感想を書かせていただいておりますので、各セッションの内容につきましては埋め込みあるいはリンクしているスライドにてご確認ください。
ある程度、技術的な正確さを犠牲にしてわかりやすく書いていますので、ご了承ください。
目次
印刷用データからの電子書籍制作
最初のセッションは、株式会社三陽社の田嶋さんによる、流通にのって販売されている電子書籍についてのお話です。
最近の主流は EPUB3 になってきているのですが、これをDTPデータから作成する際の問題点と対応について、非常に具体的にお話していただきました。
印刷データは「見た目が正しければよい」のに対し、電子書籍は「データ自体」が正しくなければならないというのが、従来のDTP制作者にとって大きな考え方の違いとなります。
たとえば、行頭1文字下げるために全角スペースを入れたり、見出しを本文と別の文字ボックスで重ねたりすると良くなかったりするわけです。
そのデータ構造についても、販売する各社(KoboとかKindleとか)ごとに仕様が違っていたりして、それぞれに最適化する必要があります。
その中で、「電書協ガイド」がスタンダードになっており、ここから各社ごとに最適化するようになっているようです。
また、InDesignにはEPUB書き出し機能があるのですが、ガイドに沿ったデータの作り方や設定をきちんと行わなければならず、あまり現実的ではないようです。
EPUBのデータは、実際はXHTML+CSSです。
そのため実際の作業は、ソースコードを手作業で修正し、スクリプトで一括変換を行い、専用チェッカーで確認するという事になります。
つまり、電子書籍を制作するには、今は制作会社それぞれが独自の仕組みづくりをすることが必要で、
- DTPデータ制作
- XHTML+CSS
- テキスト修正・変換(正規表現、Perl、Ruby、PHPなどのプログラミング)
のスキルが必要になるとのこと。
そのうえで、仕組み自体の継続的なアップデートが必要なのです。
・・・と、ここまで話が進んで、「何か、どこかで聞いたことのあるような話だな」と思いました。
そう、Webコーディングが、「見た目だけ」のテーブルレイアウトから、「文書の構造化とデザインの分離」によるXHTML+CSSへ移行する時に語られていたのと、とても似ています。
W3Cの標準仕様があり、それに加えて各ブラウザの独自拡張のための対応が必要になることなんかもそうです。
これは・・・なんか面白くなってきたような気がします。
write once, publish anywhere・・・・・・という夢を見た
先ほどは、まず印刷データがあり、そこから電子書籍を作成する話でしたが、今では紙の書籍と電子書籍を最初から出版するのも普通のことになっています。
株式会社トップスタジオの武藤さんのセッションは、中間データを作り、紙と電子にそれぞれ変換するという仕組みについてのお話です。
中間データとしては、例えば、InDesignデータ、Latexデータ、Markdown、XML、HTMLなどいろいろ考えられますが、その中で「Re:VIEW」という独自形式を提案されています。
独自形式といっても、MarkdownとCSSの組み合わせのような形式なので学習コストも低く、Rubyによるビューワーや変換ツールも開発されています。
ちなみにCSSの作成には、Compassも使ってるらしいですよ。
もう完全にWebデザイナーの世界ですよね。
中間データを使うことで、制作当初から紙と電子書籍の出力イメージを全体で共有できます。
電子書籍を、紙書籍の文字校正プレビューとして使用するというワークフローも考えられます。
課題としては、中間データを作成するという事で、紙と電子書籍で画像を差し替えたり、カラープロファイルが違っていたりと、データの管理が難しくなるので、管理する仕組みづくりも必要になってくることがあるようです。
“Vivliostyle” CSS組版 — ワンソース・マルチユースで電子書籍もWebも紙の本も。Webブラウザベース自動組版システム
紙用の印刷データから電子書籍を作るから問題が多くなるのであって、最初からWebの技術で書籍を作ればいいじゃないかと言う発想でお話していただいたのが、株式会社ビブリオスタイルの村上さん。
EPUB3の仕様だと、ビューワーの対応状況がバラバラであるために、特にデザイン表現において使用できるCSSの機能が制限されてしまいます。
だったら、最新のCSSの表現が使える仕組みをつくっちゃおうっていうのが、「ビブリオスタイル」というシステムなのです。
実は、昔からこういう発想はあったそうですが、私は知らなかったので衝撃的でした。
システムは基本的にJavaScriptで、Web制作ツールで制作します。
W3CのCSSでも、縦書き、ルビ、圏点、ページネーションといった機能が策定されてきており、柱、ノンブルといった機能はビブリオスタイルでCSSを拡張する仕組みです。
2015年9月にベータ版配布で、正式版までもう少し待たなければなりませんが、これはかなり面白いシステムです。
こうなると、完全にWeb制作ですね。
ビブリオスタイルの開発に関わっている人にはDTPのこともしっかりわかっている方がいらっしゃるそうですので、期待できると思います。
当日のスライドはこちら
読書のデザインは続く
これまでのセッションで、大手企業が自らの利権を振りかざしてひたすら普及を妨げているように感じられていた電子書籍の世界ですが、そんな中、フリーの EPUB リーダ「BiB/i(ビビ)」を開発されているのが株式会社シナップの松島さんです。
EPUBの仕様もオープンソースですから、大手の流通に乗せようと思わなければ電子書籍は誰でも出版できます。
そして、BiB/i を使えば、簡単に自分のサイトで電子書籍を公開することができます。
これだけだと印刷業界の方は、同人誌とか、個人作家が作品を発表するようなアマチュアに近い世界のように思われるかもしれません。
しかしWebの世界では、サーバーOS、Webサーバー、データベース、プログラミング言語、CMSなどなど、主要な技術はほぼオープンソースです。
そして、その中でプロとしてきっちりお金を稼ぐことができています。
今年、日本SF大賞を受賞された藤井太洋さんは、会社員時代に自サイトを立ち上げ、セルフパブリッシングで作品を発表し、今は専業作家として活躍されています。
藤井さんの作品「Gene Mapper」の公式サイト「Gene Mapper | Official Web Site」は、WordPressで作成されていて、作品プレビューには BiB/i が使用されています。
藤井さんはこちらのブログで、BiB/i により個人サイトでも「立ち読み」が実現できるようになり、非常に重要なプロモーションができるようになったと書かれています。
マネタイズの手法などは、まだまだ考えていかないといけないのでしょうけれども、はっきりと時代が変わりつつあることを実感しました。
ちなみに、松島さんのスライドは、スライドと言うよりも「読み物」になっています。
途中で「コラム」が入るんですよ。斬新すぎです。
そして、その内容は、本に対する愛情にあふれています。
大手の方々は、こんな純粋な気持ちを忘れているんじゃないでしょうか。
当日のスライドはこちら (WordPress上で BiB/i にて表示されているようです)
文字のはなし ーDTPと電書ー
書籍の書き手は「文字」にこだわります。
そして、DTPを職業としている人がいつも直面している大きな問題が「文字化け」です。
名前に使われる漢字、特殊記号など、通常表示できないと思われる文字を表示しなければならない場合、DTPではそれを特殊な外字フォントで表示したり、「画像」にして貼り付けるということが行われてきました。
しかし、電子書籍では、それらは文字として認識されずに情報が抜け落ちてしまいます。
株式会社ラングの大江さんは、文字の表示にまつわる技術的な用語を丁寧に解説していただいたうえで、文字化けが起きるメカニズムと、文字化けを起こさないための対策をお話していただきました。
Unicodeにより、表示できない文字と言うのは非常に少なくなっています。
過度なこだわりを無くせば、技術的にはかなり実用的になっているようです。
あとはフォントの埋め込みが実用的になれば良いのですが、技術的にはクリアしているのに、ライセンスの問題で実用になっていないそうです。
結局、ここでも利権が絡んでいるんですね・・・
当日のスライドはこちら
DTPとWebと電子書籍とフォント
フォントの埋め込みの問題が出てくると、Web制作の方であれば「Webフォント」が使えないのかと思われるのではないでしょうか?
まさにそのお話をされたのが、Webフォントサービス「FONTPLUS」エバンジェリストである、ソフトバンク・テクノロジー株式会社の関口さんです。
Webフォントは、フォントを埋め込む代わりに、サーバーから都度フォントをダウンロードして表示させる仕組みの事です。
すでに海外のWebサイトの多くは、Webフォントの仕組みを利用して非常に表現豊かなWebサイトを構築していますが、日本ではまだまだ普及していません。
その原因の一つは、日本語フォントのサイズの大きさ。
アルファベットなら大文字小文字合わせてせいぜい数十文字ですが、日本語は何万文字もあります。
1書体で約6MB、太さが違えばその分書体が必要です。結果、書体だけで何十MBもダウンロードしなければならなくなります。
そこで使われる手法として、フォントのサブセット化があります。
サブセット化とは、その記事内で使われている文字を調べて、使っている文字分だけのフォントデータをダウンロードする技術です。PDFで使われている技術なのでDTPの方でもご存知かもしれません。
文章の内容にもよりますが、概ね100分の1以下になります。
しかしながら、ここでも立ちふさがるのが「ライセンス問題」
多くのフォントが、サブセット化をフォントの改変とみなして許可していないのです。
最近では、一部のWebフォントサービスで、このサブセット化に対応したところが出てきています。
「FONTPLUS」もそうですし、このブログで使用しているモリサワの「Type Square」もそうです。
使うとなるとそこそこの費用が掛かるのですが、表示速度はかなり実用的になって来ていますし、私は十分な費用対効果があると思っています。
Webフォントを使うメリットとしては、多言語化が容易なことも挙げられます。
自前で多言語のフォントを用意することなく、多言語表示が可能になります。
さらに進んで、FONTPLUS では、「文字詰め」に対応しているそうです。
Web技術でDTP並みの組版って、もしかして、もうそこそこ実用的になってきているのかもしれません。
当日のスライドはこちら
電子書籍が実現する利活用事例 ~電子図書館とセルフパブリッシング~
本日最後のセッションは、NPO法人日本独立作家同盟 理事 池田敬二さんによる、電子書籍だからできることは何か? というお話です。
1つめは、公共サービスでの活用の可能性
- データなので複数に同時貸し出しができ、貸出中が無い
- アクセス権の付与による貸し出し
- 定額読み放題が可能
実例として、札幌市中央図書館の取り組み、ドコモのDマガジンがあげられていました。
2つめは、セルフパブリッシングによる、既得権益の脱中心化
実例として、松島さんのセッションでも紹介された藤井太洋さんが、また紹介されていました。
電子書籍の世界は、ゲリラ戦が有効な世界なのだそうです。
そして、そのセルフパブリッシングを応援する団体が、「NPO法人日本独立作家同盟」というわけです。
日本独立作家同盟では、「月刊群雛(ぐんすう)」を発行されており、参加者の知名度向上、スキル向上、作品の品質向上、読者と著者のコミュニケーション向上を図られています。
日本独立作家同盟の一般会員になるには、Google+ のコミュニティで自己紹介するだけで良いそうです。
くわしくは、こちらのスライドをごらんください。
最後は、池田さんによる「月刊群雛/創刊の辞」のギター弾き語りで、全セッションの幕が閉じました。
DTPのセミナーで、セッションスピーカーが弾き語りなんて・・・なんて斬新なんだ!
電子書籍の未来は、誰かが開いてくれるのを待つんじゃなくて、自分で開けることができるのかもしれない
勉強会の後は、懇親会です。
ただ、私は遠方まで帰らないといけないため、1時間程度しか参加できませんでした。
すべてのセッションスピーカーさんとお話しするのは無理だと思い、今回は「藤井太洋さん」に関わるセッションをされた松島さんと池田さんに、ほんの少しの時間だけでしたがお話をさせていただきました。
実は私、現在、「日本SF作家クラブ」公式サイトの管理をしているのです。
そして、ちょうど先日、藤井太洋さんが受賞された「第35回日本SF大賞の選評と受賞の言葉」というページを作成していたところだったのです。
これは、何かのご縁があるに違いありません。
この勉強会に参加するまでは、電子書籍は大手のしがらみの中で閉塞状態に陥っていて、下手に足をつっこまないほうが良いのかと思っていたのですが、それは全く逆で、電子書籍によって、出版の世界で個人や中小が大手と渡り合えるようになりつつあり、とても面白くなってきているのだということが実感できました。
以前私は「Webの文字組版の問題はかつてDTPが通ってきた道なのかも」という記事の中で、将来のデザイナーとプログラマへの希望を語らせていただいたことがあります。
それに対しては否定的なコメントもいただいたのですが、実はもう、電子書籍の世界では実現されつつあるのです。
なんか、ちょっと嬉しくなってきました。
そして私は、WordPress だけでなく、電子書籍にも・・・
“Get Involved”
すっかり巻き込まれているのかもしれません。
(2015年9月4日 追記)
私が勝手につけた「デスマッチセミナー」という言葉ですが、元ネタは、昔からWeb制作をやっている人なら知らない人はいない、シリコンカフェの森川さんが10年くらい前に開催された、朝の10時から夜の9時まで11時間に及ぶ「Dreamweaver 8・CSSレイアウトセミナー」の通称です。
あの時も、熱かったよなー
この記事を書いた人
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FAシステムメーカー、国内最大手印刷会社製版部、印刷・ウェブ制作会社を経て、家庭の事情で実家に帰省して独立
現在はフリーランスと制作会社シニアディレクターのマルチワーク
ウェブ制作のほぼ全般を見渡せるディレクター業務が主だが、デザイン・コーディングも好き
1997年ブログ開設
WordPressコミュニティには2011年から参加
WordCamp Kansai 2016 セッションスピーカー
WordCamp Tokyo 2023 パネルディスカッションパネラー
WordBench京都、WordBench神戸、WordPress Meetup八王子など登壇多数
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