「文字と組版、印刷」展 〜アナログからデジタルへの変遷〜

2019年10月14日~22日まで、大阪のメビック扇町で「文字と組版、印刷」展が行われました。
私はなんとか最終日の22日(祝)に行くことができました。

「文字と組版、印刷」展とは

この展示会は、大阪DTPの勉強部屋を主宰されている、えむさんこと宮地 知さんが中心となって開催されました。

「文字と組版、印刷」展 〜アナログからデジタルへの変遷〜

展示会・セミナーの内容は、こちらを見ていただくと良くわかります。

文字と組版、印刷」展 【展示編】 #oskdtp2019 – Togetter

「文字と組版、印刷」展 【勉強会編】 – Togetter

1970年代までは、印刷物はデザイナー、写植オペレーター、版下、製版と分業で、手作業で行われていました。
1980年代には、これらの技術をもとにコンピューターによる日本語専用システムが構築されたのですが、その後に海外からやってきたDTPは日本語組版システムとは別物でした。
現在では日本語の印刷物を作成するのはDTPが当たり前となっていますが、DTPが導入されてから長い間「日本語専用システム」と海外製の「DTP」の間には、何か越えられない溝があったのを、私は強く覚えています。

パンフレットには『この展示会は日本語専用システムとDTPを隔てる暗い川を提示し、アナログからデジタルへの変遷が一目で見て取れる内容になっています』と書いてあります。

会場の壁には、日本の印刷技術の歴史が年表で示されていました。
当時の流行や社会情勢なども併記されていて、はるか昔と思っていたことが意外に最近なのに驚きました。(歳を取ったからかもしれませんが)

また、実際に稼働する手動写植機、電算入力校正機、日本語専用システムEDIAN、システムを紹介するパンフレットやマニュアル、版下作成に使われた道具、書体見本帳、実際の版下などが展示されていました。

モリサワ手動写植機 MC-6型
日本語専用システム EDIAN

また、中村征宏さんの「ゴナ」「ナール」「テロップ」の原字パネルの展示もありました。
今のDTPの人にはなんのこっちゃかもしれませんが、写研のフォントの手書きの原字です。
美しかったです。

私はまさに印刷業界がアナログからデジタルに変わろうとする時期にこの業界に飛び込んだので、私のこれまでの歴史を振り返っているようでとても興味深い展示でした。

興味深いセミナーも開催

展示会期間中は、展示だけでなく興味深いセミナーも開催されました。

  • 10月14日(月・祝)
    • セッション1:Illustrator[過去・現在・未来]
      [スピーカー]カワココ氏、hamko氏、宮地さん
    • セッション2:Illustratorで光の表現再び
      [スピーカー]カワココ氏
    • セッション3:Illustrator大好き・はむこさんの「○△□でなにつくろ?」大阪出張版
      [スピーカー]hamko氏
  • 10月19日(土)
    • セッション1:手動写植、電算写植の解説
      [スピーカー]宮地さん
    • セッション2:前田年昭氏、海輝氏、枝本順三郎氏の鼎談
  • 10月20日(日)
    • 作る人、藤田重信氏 使う人、坂野公一氏 読む人、正木香子氏
  • 10月22日(火・祝)
    • セッション1:WebフォントとこれからのWeb
      [スピーカー]関口浩之氏
    • セッション2:デザイン[過去・現在・未来]
      [スピーカー]伊達千代氏、島﨑肇則氏

タイトルとスピーカー見てるだけでワクワクしてきますよね?
時間が許せば全部参加したいような内容でしたが、現在は東京住まいの私にそんなことはできるはずもなく、何とか最終日のセミナーに参加することができました。

セッション1:WebフォントとこれからのWeb

関口さんのセッションって結構何度も聞いているような気がするのですが、毎回面白いのですよね。
今回のセッションで私の印象に残ったのは、「human readable」から「machine readable」へつながる話。
古代文明からWebへとつながる壮大な話は、とてもワクワクしました。

また本題とは関係ないところですが、関口さんの過去の職歴は初めて知りました。
プリンターがついたでかい日本語ワープロとか、Yahoo! Japan とか、私が当時使ってたり凄いなと思っていたものに関わっておられたのに驚きました。
凄い人だとは思っていたが、そこまで凄かったとは! って感じです。

セッション2:デザイン[過去・現在・未来]

伊達さんはアナログからデジタルに移行するころからデザイナーとして活躍されていた方です。
セッションの最初に、昔の版下を再現したものを見せていただいたのですが、これが懐かしすぎて涙出そうな感じ(笑)

セッションではファッション雑誌「an an」を題材にして、アナログからデジタルへ移っていく中でデザインがどのように変化していったのかをお話しいただきましたが、当時なんとなく感じていたことがデザイナー視点で言語化されて、今になって当時感じていたことはこういうことだったのかと気づきました。
そして、アナログからデジタルへ移行した当時に考えられていたことが、今でも全然変わっていないことに気づかされました。

座談会

セッション後に、関口さん、伊達さん、島崎さんの3人で、いくつかのテーマに沿って座談会が行われました。
その中のテーマの一つ「いいデザインとは?」というのが面白かったです。

伊達さんから『最近、企業のロゴがどれも似通ってきている。また、デザインも似通ってきている(Webで顕著)。これについてどう思うか?』
という話が最初にあり、ここから話が広がっていきました。
スピーカーの3人だけでなく、会場の参加者も含めていろんな意見が出ました。

私も『いいデザインって誰にとってのいいデザインなのかがあるから難しい。同じようなデザインになるのは、こうすれば売り上げが上がるとか正解が出てきているからであって、デザイナーから見たら良くないデザインでも、営業から見たら良いデザインなのかもしれない』
なんて偉そうに(笑)意見を出させていただきました。

ananのデザインの変化の話の時もあったのですが、『今はデザインが同じになっていく流れのピークにあり、今後この流れの揺り戻しが来て、どんどん個性的なデザインが増えてくるのではないか?』という意見もありました。
また、『今でも個性的、挑戦的なデザインはたくさんあって、二極化しているように感じる』という意見もありました。

今のデザインが良かったのかそうでなかったのかって、きっとまた10年後くらいの座談会で話題になるのかもしれませんね。
その時にまだこの業界に関わっていたら、その時代の人に話を聞いてみたいです。

プレゼントもいただきました

余談ですが、座談会に先だって行われたジャンケン大会で勝ちまして、伊達さんのデザイン本をゲットいたしました。
後でお話させていただいたときに、「川井さんにはもう不要な内容でしょう』なんておっしゃられましたが、OJTだけでここまで来たような私にとっては、なんとなくの経験を体系化されたこういう書籍はとても役に立ちます。
特に後の人たちに経験を伝える際に、すごく役に立つと思います。
ありがとうございました。

まとめ(ちょっと宣伝)

アナログからデジタルへの激動の時代から、紙からWebへの激動の時代へと、ずっと激動の中でもがき続けている私にとって、過去を振り返って現在を見直し、未来へ進むためのちょっとした勇気のようなものをいただいた展示会でした。

実は私、主催者の宮地さんからのご依頼で、本展示会のPDF版パンフレットに寄稿させていただいております。
「Webに美しい組版を求めるのは間違っているだろうか?」というラノベみたいな文章を書いております。
パンフレットをダウンロードされました方は、読んでいただけたら幸いです。
感想などいただけると、マジ嬉しいです。
よろしくお願いします。

この記事を書いた人

川井 昌彦
川井 昌彦
FAシステムメーカー、国内最大手印刷会社製版部、印刷・ウェブ制作会社を経て、家庭の事情で実家に帰省して独立
現在はフリーランスと制作会社シニアディレクターのマルチワーク
ウェブ制作のほぼ全般を見渡せるディレクター業務が主だが、デザイン・コーディングも好き

1997年ブログ開設
WordPressコミュニティには2011年から参加
WordCamp Kansai 2016 セッションスピーカー
WordCamp Tokyo 2023 パネルディスカッションパネラー
WordBench京都、WordBench神戸、WordPress Meetup八王子など登壇多数

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